離婚したことがある。
今となってはもうずいぶん前の話だけど、離婚を切り出された日のことは、かなり鮮明に覚えている。
子供が生まれて一ヶ月くらい経った頃だった。
妻は出産後、実家に里帰りしていた。
それ自体は普通のことだと思っていたし、しばらくしたら子供を連れて帰ってくるものだと思っていた。
僕は僕で仕事をして、妻と子供が帰ってくるのを待っていた。
そんなある日、確定申告の準備をしていた。
当時、僕はマンションを買ったばかりだった。
必要な書類を探していると、マンションの権利書が見当たらない。
「あれ?」
家中を探したけど、ない。
もしかしてと思って、妻に電話した。
「マンションの権利書、知らない?」
妻は何か曖昧な返事をして、いったん電話を切った。
少しして、向こうから電話がかかってきた。
そして突然、
「離婚したい」
と言われた。
まったく予想していなかった。
もちろん夫婦だから、喧嘩もした。
僕にも悪いところはたくさんあったと思う。
でも、浮気をしていたわけでもないし、DVをしていたわけでもない。
少なくとも僕には、
「なぜ、いきなり離婚?」
という感じだった。
翌日、慌てて妻の実家へ向かった。
話せば何とかなると思っていた。
ところが、着いてみると、とてもそんな雰囲気ではなかった。
玄関先には妻の父親と兄も出てきた。
僕が何かすると思われていたのかもしれない。
妻と話をしたけれど、けんもほろろだった。
何を言っても、もう結論は決まっているように見えた。
そのときになって、僕はようやく気づいた。
あれ?
これ、昨日今日で決まった話じゃないんじゃないか。
そして、あの権利書。
結局、妻が実家へ持って帰っていた。
つまり、里帰りするときには持ち出していたことになる。
ちなみに後から知ったのだが、マンションの権利書というのは、それを持っているだけでマンションを勝手に自分のものにできるような魔法の紙ではない。
だから、今になって思えば、
「なんで権利書を持っていったんだろう」
とも思う。
ただ、当時の僕にとって重要だったのはそこではなかった。
妻は子供を連れて里帰りした。
僕は帰ってくると思っていた。
でも妻は、帰ってこなかった。
そして僕が偶然、権利書がないことに気づいて電話した日に、
「離婚したい」
と言われた。
もしあの日、確定申告をしていなかったら。
もし権利書を探していなかったら。
離婚の話は、いつ、どんな形で僕に伝えられたんだろう。
今でも、たまに考える。
あの日、妻の実家から帰って、僕は泣きながら自分の実家へ行った。
母親に事情を話していると、電話が鳴った。
妻の母親からだった。
そこから、母親同士の一時間近い口論が始まった。
僕の母親も、まあ、よくしゃべる。
でも、妻の母親も負けていなかった。
この人が、なかなか強烈な人だった。
当時の僕は、離婚というのは夫婦二人の問題だと思っていた。
でも今振り返ると、この離婚には、夫婦以外の人間がかなり深く入り込んでいたように思う。
その中心にいたのが、妻の母親だった。
健康食品の販売をやっていて、とにかく口が達者な人だった。
僕はいつからか、この人と目を合わせることすら怖くなっていた。
その話は、次に書こうと思う。

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