離婚してから、子供には一度も会っていない。
最後に抱いたのは、離婚を切り出された翌日だった。
僕は妻の実家へ行った。
通された部屋を見て、ちょっと笑いそうになった。
結婚を申し込みに来たときと、同じ部屋だった。
あのときは、この部屋で結婚の話をした。
そして今度は、同じ部屋で離婚の話をしている。
人生というのは、なかなか意地が悪い。
話が終わったあと、僕は妻に、
「子供を抱かせてくれ」
と言った。
抱いてみると、意外に重かった。
それを覚えている。
僕が子供を抱いている間、妻はずっとこちらを見ていた。
心配していたのか。
警戒していたのか。
今となっては分からない。
それが、子供を抱いた最後になった。
あれから、もう10年くらいになる。
離婚調停では、養育費は月5万円ほどと決まった。
それは今も毎月払っている。
もう一つ、
半年に一度、子供の写真を送ってもらう
という取り決めもした。
最初のころは、ちゃんと届いていた。
ただ、封筒には差出人の名前しか書かれていなかった。
住所はない。
僕に居場所を知られたくなかったんだと思う。
その後、僕は何度か引っ越した。
当然、向こうは僕の新しい住所を知らない。
いつの間にか、写真も来なくなった。
別に、
「写真を送ってくれ」
と言うつもりはない。
でも、ときどき妙なことを考える。
向こうは今でも、
「半年に一度、ちゃんと写真を送っている」
と思っているんじゃないか。
そう考えると、なぜか少し腹が立つ。
自分でもよく分からない。
じゃあ、
子供に会いたいのか?
これも難しい。
会いたくないわけではない。
でも10年だ。
僕にとっては子供だけど、向こうにとって僕は、ほとんど知らないおじさんだろう。
突然会っても、何を話せばいいのか分からない。
だから、こちらから会いたいとは言っていない。
養育費だけは毎月払っている。
そうやって10年近く経った。
たまに、最後に抱いたときのことを思い出す。
意外に重かった。
今はもう、抱き上げることなんてできないくらい大きくなっている。
何してるんだろうな。
たまに、そう思う。


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