30代後半のころ、とにかく無茶を言う人と仕事をしていた。
僕にだけじゃない。
全方位に無茶を言う。
「いや、それ無理でしょ」
みたいなことを平気で言ってくる。
当時はかなり大変だった。
ただ、その人は無茶を言う一方で、チャンスもくれる人だった。
あるとき、それまでの僕にはちょっと荷が重いくらいの、大きなプロモーション案件を任された。
関係者は多い。
締め切りは動かせない。
A社はこの日しかダメ。
B社はその日はダメ。
場所はこの日しか押さえられない。
そのうえ、途中から新しい注文がどんどん増える。
普通に考えたら、
「これ、どうやって成立させるの?」
という仕事だった。
でも僕は、昔からこういうのが得意だった。
条件が増えてくると、逆に燃える。
これは動かせない。
こっちは動かせる。
じゃあ、ここを入れ替えればいける。
パズルを解くみたいな感じだ。
結局、その仕事をなんとかやり切った。
しばらくして、別の仕事先で言われた。
「あの案件、あなたがやったんですか?」
「そうですけど」
別の人からも同じようなことを言われた。
どうも僕の知らないところで、
「あの面倒な案件をやった人」
として評判が広がっていたらしい。
そこから、明らかに来る仕事が一段変わった。
今考えると、あれが僕の仕事人生の一つの転機だった。
面白いのは、その仕事は僕が一番やりたかった仕事ではなかったことだ。
僕には別に、やりたい仕事があった。
若いころは、
やりたい仕事=自分が進むべき仕事
だと思っていた。
でも実際には違った。
やりたい仕事と、できる仕事は別だった。
僕は「できる仕事」の方で先に評価された。
当時は、それを少し遠回りだと思っていた。
今はそう思わない。
できる仕事で結果を出す。
すると信用ができる。
その信用が、次の仕事を連れてくる。
そうしているうちに、やりたい仕事にも手が届くようになった。
できる仕事を極めると、やりたい仕事もできるようになる。
僕の場合はそうだった。
若いころ、ライバルだと思っていた人たちもいる。
何十年も経つと面白い。
ものすごく出世した人もいる。
逆に、若いころはすごく見えたのに、あまり伸びなかった人もいる。
僕はいまだに、そういう人たちと自分を比べてしまう。
以前、ある人に言われた。
「周りと比べないで、昨日の自分と比べなよ」
分かってる。
でも、なかなかできない。
たぶん人間なんてそんなものだ。
それでも昔よりは、横を見る時間が減った。
やりたい仕事があるなら、そこだけ見て焦らなくてもいい。
今、自分がうまくできる仕事をちゃんとやる。
昨日より少しうまくなる。
それを続けていると、意外なところで道がつながる。
僕の場合、
遠回りだと思っていた道が、たぶん一番近かった。

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